紙ヒコーキー板倉鉱司鉄の作品展

板倉鉱司さんの個展作品を飾りつけし始めたときでした。
私は床に座って箱からいくつもの作品を取り出していた時のことです。
まだ無造作に作品がそこらに置かれていたのですが、ふと上を見上げるとこの作品が目に入りました。不思議なことにこれは飛んでいたのです。

もちろん台座に固定されたそれが本当に飛ぶはずもないのですが、確かに飛んでいた。その後もこの角度から見てみると、やっぱり飛んでいる。ほかのかくd

彫刻はいろいろな角度から作品を見るといろんなことが見えてくる。
自分だけに見える何かだっていっぱいあるんだ。

板倉作品もいろんな角度から見てほしい。
会場の関係でぐるっと回りこめるように展示してはいないけど、私に声をかけてください。展示の位置を替えるお手伝いをします。新しい魅力を発見するのは楽しい。もちろんどの作品も同様です。たくさんの魅力を発見していってください。

雲の平(雲を動かす方法)ー板倉鉱司鉄の作品展

ある程度大きくなると「雲は霧なんだよ。だから雲の中にいるって霧の中にいるのと同じだよ。」と教えられて知識としていつの間にか頭の中に入っているという経験は多くの人にあると思う。そして山に登ったり飛行機に乗ったりして雲の中に入る経験を初めてした時、こういうことだったのかと軽く感動したのは私だけではないとも思う。

板倉さんが最初で最後の登山をした時も雲の中にいた。
できればあの雲の上を飛びたい。そう思うと少しわくわくした。

もともと病弱だった板倉さんにさらなる試練が数年前に来た時、そのわくわく感を思い出し、また生きる希望を見つけることになったのです。

あの時の「羊雲」を作った。木片を削って80個ほど作った。
1つ1つナイフで雲を削って作っていると空を飛ぶ力を蓄えていくような気がするのだそうです。それはそれはわくわくする時間だった。木片の触り心地。削り進めるとどんどん手に馴染んでいく。あの柔らかい羊雲がぽこぽこと出来上がっていく。

この「羊雲」の上を板倉さんは心地よく飛んでいるんだ。

羊歯(胞子植物)、lobe(葉)globe(地球)-板倉鉱司鉄の作品展

「鉄の作品展」ではありますが、13点の銅版画も出品しています。

板倉さんの個展に銅版画はほぼ展示されるのですが、今回はいつもとやや作風が違っているように思います。
何が違うか?
これまでは輪郭線のある形を描いていました。今回一番描きたかった雲や影にははっきりした形が無いので輪郭線を描きたくなかった。輪郭線を描かない。そこに違いがあります。

「雲」と言っても入道雲のように力強くはっきりした雲なら今までの描き方でもよかったのかもしれませんけれど、今回は山で見た優しい「羊雲」です。ふんわりした「雲」を描きたい。

行き着いたのはドライポイントでした。
どうです?「羊」がいっぱい飛んでいませんか。

リルケの影ー板倉鉱司鉄の作品展

初めてプリズムで板倉さんが個展を開いてくださったとき「リルケの詩を形にしたらこうなったじゃんね」と三河弁でおっしゃいました。

リルケ近代ヨーロッパの文学者であることは知識として知ってはいたけどはて?
会場に並んでいるのは優しい形の花や草木動物や昆虫。
リルケって確か小難しくて敬遠してたはずなのに、そこにある作品はわかりやすく、なんならかわいい。私の頭はたちまち混乱の渦。

板倉さんは「リルケは生きるために大事なことは森が教えてくれるって書いているからそれを作った」と。

慌ててリルケを読んでみたけど、私にはやっぱりわからなかった。

リルケはわからなかったけど、板倉作品はどんどん心に沁みこんでくるのでした。

病に悩む若き板倉鉱司さんはある牧師さんと出会い芸術や文学や哲学に触れることになりました。そしてそれらは前向きに生きることの意味を教えてくれました。とりわけ作品を作ることはそんな時期に知り合った彫刻家掛井五郎氏の制作の手伝いをするという経験から目覚めたのでした。

リルケの存在は板倉さんの根幹でもありように思います。

この作品は「リルケの影」
リルケの文章を理解するための時間がとても楽しいと言います。リルケだけではなく文学も哲学も自分なりの解釈をじっくり進めていくことは一生の楽しみなのだそうです。

「空を飛ぶ」って自由に思索にふけるっていうことも入っているのかな?

水野加奈子日本画展ー最終日

「水野加奈子日本画展」は本日最終日です。
「engimono」で今という時代の幸せを切実に祈ること。誰の心にも響く展覧会になったと思っています。

次回は4月14日(木)-24日(日)*火曜休廊「板倉鉱司鉄の作品展ー影と雲(空を飛ぶ方法についての考察)」です。板倉ワールドから何が飛び出すのか楽しみです。

宝船ー水野加奈子日本画展

画面全部がめでたい物ばかりの「宝船」。金銀財宝がザクザク。
この「宝船」は宝ずくしと言われるものを満載にしています。

金箔を和紙の裏に張り込んで作った下地は微かに内側から光を放ち、抑えた華やかさが上品な絵に仕上がっている。

物欲を満たすことが幸せのすべてではないが、できれば豊かな生活を手に入れたいというのが人の持つ憧れです。
ささやかな憧れを絵を飾って願うという謙虚さは素敵だなと思います。

明日この展覧会は最終日を迎えます。
疫病・戦・天災に心が沈みがちな毎日ですが、絵を観ることで少しでも気持ちが明るくなれればいい。それが水野加奈子さんの絵を描く原動力だったことが本当に嬉しい。あと1日の会期ですが観に来ていただければ幸いです。

七福仮装行列ー水野加奈子日本画展

DMに使用した絵です。
七福神(毘沙門天・恵比寿・布袋尊・大黒天・福禄寿・弁財天・寿老人)に扮した動物たち。その動物たちもそれぞれめでたい存在です。

「engimono」
水野加奈子さんがこれぞ人々を幸せにしてくれるものを惜しげもなく振舞いました。病も戦も天災も一度にやってきたこの時代が早く穏やかになるようにと心から祈ってのことです。この世を司る何かに奉納するように今回の個展の作品を描き上げたのだと思います。

縁起物を飾る。
人の力の及ばぬ何かに祈る。
それが人の心の奥底にある根源的なものなのかもしれません。

蓬莱ー水野加奈子日本画展

かぐや姫で一躍有名になったのがこの蓬莱です。
絶対持ってこれないことを知ってて車持皇子に「蓬莱の玉の枝」を所望しました。本当にあるのかどうかわからないほどありがたくもめでたい「蓬莱」は東の海上にあり不老不死の薬を持つ仙人が棲むところと言われていて、めでたいもので埋め尽くされた地とされています。

調べればもっと具体的なめでたいものがあるようです。
が、まあ松竹梅に鶴亀が基本のようです。
そこに加奈子さんの大切な飼い猫黒猫の「墨(ぼく)ちゃん」も入れました。
黒猫は魔よけ厄除けの意味があります。

全体にトーンを落とした渋い色味ですが紅梅と鶴の頭の赤が上品に明るさを演出しています。小さいけれど細かいところまで丁寧に描きこまれていて好感の持てる作品です。

Ebisu&Daikokuー水野加奈子日本画展

恵比寿さんと大黒さんです。

最も古典的な日本画の題材です。
今どきの神様ならばサーフィンもするだろうしジェット機にも乗るだろうと、恵比寿さんは鯛でサーフィンを大黒さんはジェット噴射している米俵で空を飛ぶ。
神様たちは大好きな蛙や鼠に変身させて。

伝統的な日本画の技法で上質な岩絵の具を使って丁寧に描かれている絵。
古風な扇型の画面を古風な額に入れての展示です。
今回水野加奈子さんの使った額は多くがヴィンテージ(10年から100年前)のものです。蛙や妖怪が好きな水野さん、ややもするとぶっ飛びすぎそうなのですが額と技法が古典的(悪く言えば古臭い)なので絶妙なバランスになっています。

額と絵のバランスには特に神経を使うそうで、この個展の作品を制作するにあたり、額をいつも見えるところに置いてどういう絵にすれば絵も額も引き立つのかを考え続けたそうです。

「妖」を多くの人に受け入れてもらうには「怖い」を超える品位が必要なのかもしれません。

極小の絵もありますー水野加奈子日本画展

小さな絵の展覧会や猫展で大人気の極小の絵はこの個展でもやっぱり人気です。
こちらは会期中でもお持ち帰りいただいています。

手のひらに乗るサイズの絵たちは気軽に飾っていただけます。

どれももちろん「engimono」
小さいながらも縁起のいいものが描かれているので、どちらにも漏れなく良きことが付いてくるはずです。