
「懐郷」
出生地はあるが故郷は無い。子供の頃、とにかく引っ越しが多かった。不安と緊張感を常に抱えて焼き付けなければならなかった情景の記憶は断片的であり、しかし鮮明である。黒い海、路地、石階段、鉄工所、商店街の金魚屋、百貨店の屋上、踏切、公園の遊具・・・そして赤い色。
この絵を描いた頃、それらを繋げたら故郷が見つかると思ったのかもしれない。
傍らに赤い毛糸を偲ばせて描いた6点シリーズの1点。
(服部純栄)
温度・湿度・匂い・音
ほんのちょっとした空気の流れまでを含めて「気配」というのならこの絵には気配まで描き込んである。しかもけだるいほどの日常の気配。だからこそそこに危うい未来を予感させる。
