嵐の一夜(弓曳小早舟幻視)ー小山恵展

この個展では一番大きな作品です。

不思議な場面なので「これどういうシチュエーション?」と聞かれることも多い。

ある日小山恵さんは大雨にあいます。線状降水帯とニュースなどで流れるあれです。幹線道路だったので大渋滞にまきこまれたのですが、怖いことに大きな川2本と海が近いところでした。三方から水がひたひたと迫ってきました。このままでは車もろとも水没してしまうというとき、その道路沿いに銭湯がありました。少し高いところに駐車場があったのでそちらに避難したのです。
そこにいればまだ水が迫ってきても銭湯の屋根に登ればいいと判断できるほど危険回避に確信が持てました。すると急にその状況が冷静に見えてきました。

観察したその状況を絵にしてみよう。
実際にはかなり差し迫った状況。水が迫ってくる怖さを実際に見えていたものはもちろん絵の中に描きこんだ。そこに怖さの象徴として9代目玉屋庄兵衛さんの「骨からくり」を入れました。木で作られているとはいえ骨だけで表現している現代からくりです。手に持つ弓は本来舟の舳先にある的を射ることができるそうですがそこは恵さんの創作が入っています。(骨からくりを絵にすることは庄兵衛さんの許可を得ています)

からくり人形を恐怖の象徴として入れるのは効果的です。
からくり人形が恵さんの感情を表現するものとして登場するのは今回はこの1点だけですがこれが最初で最後とはならないだろうと思います。からくり人形を描き始めてすでに10年近くになるそうですが、どんどんその見方が深くなっているようです。まだまだ見えてないことがあるに違いないとおっしゃいます。

からくり人形と恵さんの二人三脚はある意味始まったばかりなのかもしれません。

乱舞のからくりたち―小山恵展

「からくり人形」に出会ってしまった小山恵さん。
からくり人形の動きから目を離せなくなってしましました。

愛知県にはからくり人形を持っている地域がたくさんあります。お祭りの山車にからくり人形があってお祭りを盛り上げているのです。恵さんは各地のお祭りをたくさん見て回っています。人形たちの華麗に動く姿は素晴らしい。
自分の絵の中でも舞わせたい。
「乱舞のからくりたち」はそんな思いの中から生まれた作品です。

お祭りで見て写真に撮るだけでは絵にするのは難しいので、自身の手元にも7体ほど置いているそうです。昨日紹介した「太鼓を叩くからくり人形」は7体目の人形だそうです。お祭りで見たのと同じ動きはしないし、同じ顔ではないけれど手元の人形を矯めつ眇めつし、そして自分の創作も含めて絵にしていくのです。

この絵の3体の人形は全部同じのはずですが、手持ちの人形で角度を変えてみたりもするので同じ顔にはなっていません。それが小山恵のリアリティ。

人にできるだけ近づかせたいと生まれたからくり人形。人間のように動く人形。完璧な動き。だけど人間と同じではない。人間はいつも完璧ではいられないのだから、ある意味からくり人形は人間を越えてしまった。越えてしまったがために人間から遠ざかった。それでも恵さんの目はからくり人形から離れないのはなぜだろうか。

太鼓を叩くからくり人形ー小山恵展

小山恵さんはある時期何人かの方から「あなたの絵には主役がいない」と言われました。どうしたらいいのか考えたりみなさんのご意見を聞いたりした中で「からくり人形を描いたらどうか」というアドバイスをいただきました。その時はからくり人形についての知識もなく興味もなかったのだけど、見てもいなくていいか悪いかなんて決められないなとからくり人形を見に行きました。

そんな知識での見学だったのでそれほどの期待もなく見に行ったんです。

しかし、それは衝撃の出会いとなったのです。
からくり人形は動く。どんな動きをするかも知らなかった恵さんは、その動きにも魅せられてしまう。毎回寸分の狂いなく動く。人の動きとは少し違うし、人ができない動きでもある。
からくり人形は大陸の空気を纏い時空を超えた存在に見えた。
もうからくり人形から目を離せない自分がいたと言う。

「太鼓を叩くからくり人形」は唐子(中国の髪型服装の子供)
笑っている顔は決して笑いを崩さない。人形だから崩れるわけもなく、心の底から笑っているはずもない。この人形がどんな動きをするのか私は知らないけれど、この人形をモデルに夢中で絵を描いているとたまにコトリと動くことがあるそうです。夜中ならぎょっとする。だからベッドのそばにはこの人形を置かないようにしているんですって。

小山恵展ー存在のありかの行方

洋画家小山恵さんの個展です。

「存在のありかの行方」
バーチャルと実在が行ったりきたりする現在、ふと存在の拠り所の不確かさに不穏を感じる。そんな小山恵の心情を絵で表すとすると・・・。
からくり人形や曼殊沙華に恵さんの心情を託しているのだろう。

2025年4月3日(木)-13日(日)*火曜休廊
正午ー午後7時(最終日は午後5時まで)

4月5日(土)午後3時よりアーティストトークも開催します。(個展会場にて・参加無料)是非お出かけください。

平塚啓Paper Artー最終日

「平塚啓Paper Art」は本日最終日です。(午後5時まで)
超絶技巧の向こうに平塚啓さんの深い思いが見える個展でした。

次回は洋画家小山恵さんの個展「小山恵展ー存在のありかの行方」を4月3日(木)-13日(日)*火曜休廊です。正午―午後7時(最終日は午後5時まで)
4月5日(土)午後3時よりアーティストトークも開催します。是非お出かけください。(個展会場にて、予約不要・入場無料)

追い求めるものー平塚啓Paper Art

平塚啓さんの「九相図」は仏教画の「九相図」の形はなぞっていますが意味するものは違います。本来修行増の煩悩を払ったり無常観や不浄観を示してはいないことは以前も書きました。生き物が生命を終えたとき土に還ると言います。動物も植物も汚く変化して芥(あくた=ごみ)になるのではなく、芥は土になる。その土は養分豊富な土になりそこに生えついた植物を豊かに育てる。そこに実るものはそこに集まる小さな動物を養う。小さな動物を少し大きな動物が食べ養う。その動物を・・・。弱肉強食はあれども、それが大きな意味での地球の繁栄。と平塚啓さんは考えた。

初めての個展で制作した大きな木の1枚の葉っぱは枯れて土になった。

今回は向日葵の花・椿の花・銀杏の葉・桜の葉が土に還っていく様を切り出しました。

土に還ったその先に豊かな大地が生まれ、植物も動物も豊かに繁栄する。それがこの世に生きとし生けるものの未来への希望であり幸せなのではないだろうか。

「九相図」シリーズと「動物」シリーズは全然別の世界ではない。平塚啓さんの中で点だったものは実はちゃんとつながっていた。そこには必然的に線が存在する。

作家の中には作りたい描きたいものの点がいっぱい存在する。最初は唐突に心に浮かんでくる点はいつか線になり面になって制作の必然へと確信していくものなのかもしれないと、この展覧会を毎日見ていく中で考えました。
明日3月30日「九相図 向日葵」は最終日を迎えます。これからも平塚啓の作品の肝がどんどん養われていくことが楽しみだと思える幸せな最終日になりそうです。

動物礼賛ー平塚啓Paper Art

もうとにかく動物がいっぱいの会場です。
平塚啓さん、本当に動物が好きなんですね。

取材をして資料を調べて、制作で実際に手を動かして・・・。
何がここまで平塚さんの心を掴んでいるのでしょうか。
好きなものは好き、としか言えない。理屈ではない「好き」
花が好き、山が好き、猫が好き、・・・

「好き」は人を豊かにしてくれる。

オナガフクロウー平塚啓Paper Art

ギャラリー内には鳥が飛んでいます。
もちろ平塚啓さんが切った作品ですが、本当に飛んでいるみたいで迫力があります。

「紙ですよね?破れないんですか?」
だれもが聞きます。エアコンの風に乗ってずっと飛ぶように揺れていますが破れたりちぎれたりはしません。紙が丈夫なのと切り終えた後墨汁で黒く着色するので成分である膠でさらに紙が強くなるのは考えられることです。

それにしてもオナガフクロウが飛ぶ様子のリアリティを作品に落とし込んでいくのは平塚さんのデッサン力の凄さでもあります。実際に作品を前にしてみると平面なのに立体感が半端ない。鳥のように天井からつるすと重力で羽根がしなるのでより立体的になるのは事実ですが、それも計算の上での制作なのだろう。

オナガフクロウは餌の鼠を足につかんで飛んでいる。あまりのリアリティにちょっとぎょっとします。

ハシビロコウー平塚啓Paper Art

平塚啓さん本人が動物シリーズで一番気に入っているのが「ハシビロコウ」

掛川花鳥園で大人気のあのふたばちゃんです。
実際に花鳥園に取材に行って観察したり撮影したりしました。
動かない鳥として有名なハシビロコウですが平塚さんの前で飛んでくれたそうです。飛びそうな気配だったので飛んでいるところを動画に収めることもできました。飛んでいる姿を作品にしても飛ばないことで知られているのに「ハシビロコウ」だと気づかれないのも寂しいので正面からの顔を切りました。

好きな動物はたくさんいるけれど実際に目にできないことも多い中「ハシビロコウ」は会うことができた特別な動物です。

動物が好きー平塚啓Paper Art

平塚啓さんは動物好きです。
推しの動物を切っている時間はきっと至福の時。

そういうわけで動物の切り絵が物量としては今回とても多い。
「九相図」で煮詰まったときとか向日葵が枯れて崩れていく様子をじっくり観察しているときなど、動物の切り絵で心をほぐしていたのだそうです。

動物シリーズだって多くのお客様は「なんて細かいの!」「こんなことができるのが信じられない」など心底驚いていらっしゃいますが、当の平塚さんにとっては楽しい時間だったんですね。

動物園で写真を撮ったりもされたそうですが、なかなか良い場面に遭遇できず色々な動画の中のいい表情(平塚好み)をピックアップしたり。それはそれで苦労はあったようです。愛くるしいだけが平塚好みではないのがまた魅力です。
「九相図」シリーズにはないリラックスした状態での制作も根を詰めてばかりではなく心と体のバランスを取りつつの大切な「動物」シリーズです。