ときどき想う(2)ー百瀬博絵画展

この少年の絵も随分前から描いているモチーフです。

小学生だった百瀬博さんのクラスメートで特別仲良しだったわけでも印象深い思いでがあるわけでもないのに、こんな姿勢で教室の自分の机のところにいたのを覚えているだけなのだそうです。

この少年を通して描いているストーリーはいつも違っている。描いているうちにその時心の中にある何かを形にしたくなる。

今回は顔の角度と目の位置を決めることが重要なポイントだったそうです。

この絵を描きながら出来上がった百瀬さんのストーリーはあるのだけれど、見る人がそれぞれストーリーを観てくれたらそれが一番だそうです。言い換えれば絵とお話しするっていうことです。作家は作家で絵とお話ししながら描いている。

あ、そうそう、モチーフの少年、前回までは天使の翼は無かったし頭に鳥のお面も無かったよね。

なにげない風景ー百瀬博絵画展

スペインの風景です。

百瀬博さんの画家人生はスペインから始まりました。
日本の美術大学へは行かず、スペインで学びたいとかの地に渡ったのは20代前半のことでした。

たくさんの希望を胸に、時にはなぜこんなに遠くまで来てしまったのだろうと不安に思ったり。いいこともそうでなかったこともすべてこの地に行かなければなかったこと。

スペインをずっと描き続けるのはあの日の瑞々しい気持ちを今もどれだけ持ち続けていられるのかと自分に問いかけるのだと。

百瀬さんが描くスペインは実際にある風景ではないのです。この建物もこの木も彼の目で見たものではありません。でもこれは間違いなくスペイン。百瀬博の心の中にあるリアルなスペイン。

あの時のスペインが今も心の中に生きているかどうかを知るために描く百瀬博のスペインです。

道の物語ー最終日

「道の物語ー絵本作家ながおたくま出版記念原画展」は本日最終日です。(午後5時まで)
強く優しいながおたくまさんの世界をお楽しみいただけたことと思います。

次回は「一人の私の一日の時間ー百瀬博絵画展」を5月30日(木)-6月9日(日)*火曜休廊で開催します。6月1日(土)午後5時よりギャラリートークも開催します。(予約不要・入場無料)是非お出かけください。

技術を生かす―道の物語

ながおたくまさんはベタ塗り(決めた範囲内を一色で隙間なく塗る潰す技法)がうまい。本当にムラがないんです。

35年のプリズム運営期間で3本の指に入るうまさです。
これってすごいことなんですが、パソコンが普及しこの技術はあっというまにパソコンが代わりにやってくれるようになったので多くのデザイン業界人にとってそれほど必要な技術ではなくなったのは事実です。

ながおさんがあまりにこの技術がすごいので多くのお客様から「これはパソコンで描いたのですよね」と言われる始末です。それくらいうまい。

確かに技術が優れていてもそれを使って何を表現したいかが重要でそれに重みがなかったら「うまいね」で終わってしまうものです。
表現したい何かがあってそれに優れた技術が加わればそこには大きな説得力が生まれる。逆に言えば表現したい何かに技術が伴わなければ説得力が損なわれる。

ながおさんは全部手描きで原稿を制作します。パソコンで描いてもいいのですが、手描きにこだわる。そこにこの絵本の温かみが生まれるのです。それがながおたくまの説得力。

さっき書いたようにながおたくまパソコン疑惑がありました。それを払拭すべく今回の絵本では完璧なベタ塗りの上に色鉛筆で少し描き加え手描き感を出すように工夫しました。この絵で言うと水面の波や岸辺の草の部分です。
それだってベタ塗りが完璧だからこそ効果的なんです。

ながおたくまは進化する。これからもずっとずっと進化し続けます。

道がない!?―道の物語

「道の物語」にはどのページにも道があります。「道」が主役でもありますから当然なんですけどね。でもこのページには道がありません。

なぜ?

「道」はどこかに行ける。「道」を歩くとはどこかに行くという意思を持つこと。

「道」がないこのページにはながおたくまさんの1つの思いがあります。
それは1人で生きる道は意思が必要だけど、たまには流れに身を任せてみるのもいいんじゃないかな。いつも強い気持ちをもっているのはいいことだけど疲れてしまう。「道」のないページ行かなければならないどこかがないページ。

小舟に寝転がってどこにたどり着くのか、そんな日があってもいい。

たくさんの仲間たちから吸収しています―道の物語

ながおたくまさんはとても勉強熱心な素敵な作家です。

先日日本画家鈴木喜家さんの個展がプリズムでありました。
風景画ばかりの展覧会でした。それを観て「僕の絵は絵本の1ページですが、道の物語は道を中心にした風景でもあるからとても勉強になる。」と思ったそうです。この山は鈴木喜家さんの山の1つを参考にして描いてみました。木の並び方もそうです。色もデフォルメーションも全然違うのだけど、構図は鈴木喜家風です。

他にもいろいろな作家さんの作品を観てインプットして自分の作品にアウトプットする。それは観て真似をするではありません。心惹かれる何かを自分の作品に 昇華させる。ながおたくまはそんな作家です。

番外編―道の物語

絵本の原画は販売することができません。これからのながおたくまさんにとって大切な資料になるものですから散逸させられないからです。このことについてはファンのみなさんにもご理解いただきたいと思います。

個展ですから作品が欲しいと言ってくださるお客様がいらっしゃるのは当然のことですから、今回は「道の物語」のそれぞれのページに因んだ絵を販売可能な作品として描いていただきました。

少し下世話な話を書きます。
本は出版にたくさんのお金がかかります。絵本となると全編フルカラーですからなおさらです。これがペイできて作家に印税が入るようになるには莫大な数が売れなければなりません。ベストセラーというやつです。そうなるのはほんの一握り。いや「握り」ではなく「雫」です。
もう全国的に名の知れた作家なら出版と同時に売れることもありますが、ながおたくまさんはまだそういう存在ではありません。いつかはそれで生活ができるようになってほしいと思いますが、もう少し時間がかかるかもしれません。
「道の物語」はとてもいい絵本です。それでも今日明日お金には変わらないのです。みなさんの応援がその時間を短くしてくれるはずです。

そんな涙ぐましい状況なのにながおさんはさらに高みを目指します。
目指さなければ絶対に到達できない。目指すからいつかは到達できるはず。

今日紹介させていただいた絵本の中には無い絵も「道の物語」を支える絵になってくれるといいなと思っています。

最後のページ―道の物語

これが「道の物語」最後のページです。
この絵本は表紙を含めて18点の絵で構成されています。
今日までに4点の絵を紹介しましたのであと14点あります。
全部はお見せできませんので、あとは会場か絵本でご覧ください。

「道」のシリーズはながおたくまさんが絶不調の時に誕生しました。
朝目が覚めると「また今日が始まってしまったな」というネガティブな気持ちの日々。それを絵にしたのです。展覧会に出しても芳しい反応も得られず、やっぱりこういう気持ちを絵にしてはだめだなと半ばお蔵入りさせたシリーズでした。ですが、ある時その数点をプリズムでの展覧会に再登場させたら意外なことに大評判となったのです。

誰にだってネガティブになる日はあります。
だから心の中から素直に表れたその気持ちは共感を得られたのだと思います。

ながおさんは絵本作家ですから、初登場の展覧会では子供が喜ぶほのぼのとした絵が求められたのだろうと思います。プリズムでの展覧会ではそういうお客様ばかりではなかったということです。

プリズムで評判を得てからはたびたびこのシリーズが登場しました。
当然ながおたくまさんの気持ちもネガティブな日ばかりではなく、ポジティブな日もあるわけです。書き溜められた絵は等身大の「ながおたくま」だった。

ポジティブな日もネガティブな日もあるのは「ながおたくま」さんだけではありません。あなただってあるでしょう。私にだってあります。ただその気持ちの引き金になったことには随分違いがあるのだからこの絵本には文章は付けませんでした。それはそれぞれの心の中でストーリーにしていただくのがいい。

猫は結局つかず離れずでずっと付いてきました。これからもずっと付いてくるかどうかはながおさんにもわからないそうです。

そうそう、初めに持っていた花束はながおさん的には「昨日までの辛かった自分、頑張った自分に、さよならありがとう」の気持ちだそうですが、みなさんは別のストーリーがあっていい。いやむしろあったほうがいいのではないでしょうか。