払暁の夢(獏)ー水野加奈子・妖怪日本画展

プリズムでの水野加奈子展は10年ほど前の事でした。
打合せで「蛙が好きなので描きます」とおっしゃったのですが、私には多くの人に蛙の絵が好まれるかどうか疑問だったので「蛙も描いていいけど、日本画だから花なんかも描いたら」と答えました。我ながら今考えれば馬鹿なことを言ったものだと呆れますが、長く発表を続けるには売れる絵も必要というつまらない老婆心からの発言でした。

当時から加奈子さんの絵は達者だったのでそれなりに花だって描けていたのですが、描きたかったものではなかった。見る人が見ればそれはわかる。「花は描きたかったわけではないでしょう」と言う人もいらっしゃいました。

その個展中に日本画の世界では権威のある某公募団体を目指してきたし、それなりに傾向と対策がわかりかけてきたけれど、それは自分が描いていきたいものではないから辛いということを話してくれました。絵は何のために描くのか?それはそれぞれの画家が目指すところによって違うのだけど、加奈子さんにとってその公募団体を目指すのは彼女の心を見ないふりをすることにもなるのだろうと思いました。

だからといって好きな蛙を描くのもなかなか茨の道なのではないだろうか。どうせ辛いのなら好きなものを描く辛いはまだ耐えられるのかもしれないとも思いました。

以来加奈子さんは好きな蛙を描き。猫を描き妖怪を描き続けることになりました。とはいえとんでもない覚悟を持って臨んだのでしょう。10年の制作を見続けていてわかります。好きなものを描いていても多くの人が目を離せなくなるのはその覚悟の深さです。絵の描き方の研究と日本画への知識、そしてなによりもどれだけ手を動かしてきたか。

まだまだ進化するだろうし、しなければならない。
2年後にまたプリズムでの個展が決まっています。その進化をみなさんも観ていてください。

今日紹介している絵は瑞獣「獏」です。「獏」は悪い夢を食べてくれるいい妖怪です。皆さんのみならず加奈子さんの悪い夢もきっと全部食べてくれるはずです。

義猫伝(猫の化鼠退治・金沢の伝承)ー水野加奈子・妖怪日本画展

お寺に棲みついた大鼠を2匹の猫が退治したという話が金沢に伝わっているそうです。伝説のお寺には義猫塚が今もあるようです。

猫大好きな水野加奈子さんがこの義猫伝説を描かないわけはありません。

黒猫が被っているのは猫型兜。ん?猫が猫を被っているってしゃれ?こういう小ネタを入れてくるのが加奈子さん。しかもこの黒猫もしかしたら彼女の愛猫墨(ぼく)ちゃん?

こういう絵を描くにあたって炎や不穏な空気を表す黒雲は日本画の伝統的な描き方をちゃんと描ききる。こういうところを手を抜かず技術を習得するところに好きな世界を突き進む説得力が生まれるのだと思う。

全国にはこういった妖怪伝説はまだまだたくさん伝わっています。
加奈子さん、描くネタ尽きませんね。私たちも楽しみに待っていますよ。

瓢箪鯰(大鯰)ー水野加奈子・妖怪日本画展

「瓢箪鯰」とは、つるつるした瓢箪で鯰を捕まえる、つまりとらえどころがないことを意味します。「大鯰」となると、地下にいる大鯰が地震を引き起こすと言われることからそれを退治して暴れないようにしたという言い伝えも各地にあるようです。

この作品に水野加奈子さんは「瓢箪鯰(大鯰)」と言うタイトルを付けていますから、どちらということなく描いているのでしょう。

「大鯰」を退治したとされる人物には菅原道真もいますが、各地にいろいろな名前が残っていることから加奈子さんは大好きな蛙を武将にしているんですね。

鯰は捉えどころがないとされたり、地震を起こすと言われたり、どうやらあまり喜ばれる存在ではないのですが、加奈子さんの鯰はちょっと困ったような顔をしています。鯰は悪気なんて全然なさそう。むしろ世間の見方に困惑しているのかもしれません。蛙だってそんなに怖そうな顔もしていないし、案外仲良しなのかもしれません。

地震の多い昨今、穏やかに過ごす鯰の絵は案外縁起がいいのではないでしょうか。

荊毒鵺到頭大詰(鵺)ー水野加奈子・妖怪日本画展

源頼政が妖怪「鵺」を退治した場面です。頼政は名古屋山三郎さんがモデルを務めました。

10年以上もモデルを務めていただいている山三郎さんには本当に勉強させていただいたと水野加奈子さんは言います。
あるポーズをお願いした時彼は「なぜこのポーズなの?このポーズになる前の動作は?そのあとどう動くことになるの?」と質問されました。かっこいいと思ったポーズをお願いした加奈子さんはその時にお願いしたポーズの後先のことは何も考えていなかった。

山三郎さんは役者さんなので何のためにどう動いてきて、そこからどう動いて、どういう結末にするのかをいつも考えて体を動かしています。彼にとっては当たり前の質問だっただろう。それによっては表情も変わるかもしれません。

一方加奈子さんは人物描写も勉強してきてはいますがポージングが動作の一部という概念がなかった。それは衝撃的な一言だったと言います。

以来人物はもちろんのこと動物も妖怪もその絵の前後の様子も想像して絵にするようになったそうです。

画家の意識を変える存在。
「muse(ミューズ)」は芸術を司る女神です。山三郎さんは男性なので女神ではありませんが加奈子さんにとっては「muse」に近いのかもしれません。
山三郎さんにモデルをお願いするのは加奈子さんにとって特別な絵だけです。

気合の入った1点をよく観てください。

ミニチュア作品が人気ですー水野加奈子・妖怪日本画展

水野加奈子さんは「小さな絵の展覧会」や「猫展」などのグループ展ではほぼ毎回このミニチュア作品を出品してくださいます。8割がた完売になる大人気のシリーズです。

この個展でも出品してくださいまして、このコーナーだけは即売にさせていただいています。そして売れた分は少しずつ補充をしているんです。だから初日には無かった作品が増えていたり、あった作品もなくなっているという流動的なコーナーです。

いつもとちょっと違うのは猫と蛙より妖怪のほうが多めなところでしょうか。猫と蛙も妖怪寄りな気もします。

とにかくこのコーナーは日々変化するので目が離せません。

*明日11月3日(火)は定休日です。

猿虎蛇ー水野加奈子・妖怪日本画展

「猿虎蛇」は岐阜県旧洞戸村に伝承される魔物です。知名度の高い「鵺(ぬえ)」と姿かたちはかなり似ているが絵を見るとわかるように顔がサルで胴が虎で失費が蛇なんです。悪さをするというので藤原高光が打ち取ったとされています。岐阜の妖怪ということでちょっと親しみがわきますが、魔物ですからお気を付けください。

この世で見ることは実際には難しそうですが、顔も胴も尻尾も現存する動物ですから会えそうな気がしますよね。

日本画を描くうえで妖怪を描きたい自分は正道を進んでいるというわけではないと水野加奈子さんは言います。だけどずっと描き続けるためには自分に対しても他人に対してもその説得力は持っていたいと思ってもいます。

説得力を持つにはどうしたらいいかを考えました。
一番は描く技術。デッサン力はどんなジャンルでも求められますが日本画の伝統的なたくさんある技法をできるだけ身に着けたい。日本画を勉強し始めた学生時代は日本画も厚塗りが流行っていたのでざっくりとした力強さで描き進めていました。薄塗りで細い線を描く技術を身に着けることを心掛けました。

「猿虎蛇」は大き目な作品ですが背中の虎柄は面相筆で丁寧に毛の1本1本を描いています。そのために学生の頃力いっぱい描く筆と違って繊細な細い筆面相筆を使います。細い線をきれいに描くにはそれなりの修練もいります。きれいに描くには少々高めの筆も要ります。

自分の好きなものを描く続けるために決めたことはそれだけではありません。会期中お伝えできればいいなと思っています。

猫又ー水野加奈子・妖怪日本画展

水野加奈子さんは無類の猫好きさん。
猫の妖怪「猫又」を描かないわけはない。

人に変われている猫が年老いて「猫又」に尻尾が二股に分かれて化けるといわれています。妖怪になれば永遠の命を得るのであれば、猫を愛する人々は「猫又」のなって生き続けることを願うのはよくわかります。

せっかくの「猫又」ですから「猫じゃ猫じゃ」と踊って歌って大騒ぎ。

めでたい「鍵猫」も「鍵猫猫又」でいますよ。
こういう小ネタ仕込みは加奈子さんの遊び心。この個展にはいろいろなところに小ネタをちりばめています。それも探してみくださいね。

 

閃迅示晦隨せんじんがしめすくらまのまに(烏天狗)ー水野加奈子展

DMに使われた作品です。
作品のタイトルは「閃迅示晦隨(烏天狗)」暗いところに瞬時に切先を指し示すというような意味かと思われます。

天狗のルーツは烏天狗だということも言われているそうで、鼻が尖っているのは烏の嘴からのビジュアル化ではないかというところかららしい。
中国では烏天狗は雷神だとも言われているそう。

水野加奈子さんは妖怪のルーツを調べるのが面白くて深く深く追求しています。知ったからには絵に落とし込みたい。
加奈子さんが大好きな蛙も「烏天狗」のお供なのか化身なのか絵の中に忍ばせています。

かくして水野加奈子さんが思う「烏天狗」は完成しました。

モデルは名古屋山三郎さん。もう7,8年前から加奈子さんは彼に絵のモデルになっていただいていますが、今回も2点の作品を山三郎さんで描いています。

山三郎さんがモデルの「烏天狗」はそれはもうとんでもなくかっこいいのです。
エンタメ性高き1点をとくとご覧あれ。

百鬼paradeー水野加奈子・妖怪日本画展

妖(あやかし)のものが大好きな日本画家水野加奈子さんが思いっきり大好きなものを描き上げた個展です。

百鬼とは古より鬼や妖怪が深夜徘徊すると言われていました。怖いもの見たさの心でしょうか。

見たこともない妖怪を想像するのは怖いけど楽しいことでもあります。今にも伝わる百鬼を描いた絵「百鬼夜行」は数多く、平安時代には描かれていたとの説もあります。実は水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」もその流れなのだそうです。先日の日曜美術館では「喜太郎」のギャラが入ると絵巻を買いそろえたと紹介されていました。

以前の個展でも百鬼夜行をベースに加奈子さんは作品を描きましたがその流れは今回も続いています。

百鬼の中には妖怪に見立てて大好きな蛙と猫も描きました。
優れた日本画の技術を持って描いた妖怪たちを是非ご覧ください。

10月31日(土)午後2時よりギャラリースペースプリズムにてアーティストトークも開催します。(入場無料・予約不要)妖怪への想いなどをお話ししていただく予定です。

水野加奈子在廊スケジュール
10/29(木)   15:00-19:00
30(金)   17:00-18:00
10/31(土)11/1(日)5(木)6(金)7(土)   12:00-19:00
11/  8(日)   12:00-17:00
*11/1(月)4(水)は在廊できません。

Goki & Artists 2026 Autumn-最終日

「Goki &Artists 2026 Autumn」本日(10月25日)最終日です。*午後5時まで

次回のプリズムは10月29日(木)-11月8日(日)「百鬼parade 水野加奈子・妖怪日本画展」です。31日(土)午後2時からアーティストトークも開催します。是非お出かけください。*火曜休廊