圧倒するものー山内寿美展

この個展に2年半の時間を費やした山内寿美さん。
メインになる内臓を思わせるものだけで18000個、周りに飛び散ったようにおかれているものやスタートの服など合わせると35000個にもになったそうです。

そのビーズは全部本人の手で縫い込まれています。ベースの服やシーツを染め上げるのも全部手作業。気が遠くなりそうな圧倒的な作業量は見るものたちへの説得力になる。

それなのに本人は「まだまだ付け足りない」とまで言います。
思いのすべてがまだ全部出し切れてないという感覚だと言うのです。

この個展への達成感はあるが、まだまだ縫い足りていないなというのが今の気持ち。

いくつ縫い付けようとかいくつ縫わなければと思ったらこの作品の制作から逸脱する。数えたの個展中きっと聞かれるだろうからなだけ。そんなふうに山内さんは話してくれました。

遠い未来に地球上の生き物たちが「進化」していってほしいという願いはまだしばらく制作の核になりそうだ。見守っていきたい。

色ー山内寿美展

ベースになる素材は色付けされています。どの部分も濃淡はあるけれど基本はパープル系の色になっています。

長い期間かけて制作していますから、その都度全く同じ色にはなりませんし、そこはあまり繊細な作業にしませんでした。

なぜこの色にしたのかと、本人も首をかしげています。

もともと好きな色ではあったのだけど、この色にしなければならないという明確な理由はないのだそうです。だけどこうやって展示してしまってからなぜこの色にしたのかが気になっているようです。

前にも書いたように床と作品が馴染むように探した素材に意味を見出したようにこの色にも自分が気づいていない意味があるはずだと思うのです。

全てを「理」で解いていくことはできないのだけど、しっくりいくのはきっとそれはあるべき姿だから。

今はわからないことも少しでもわかればまた深めていくこともできる。次の制作につなげていくためにもこの色を選んだ理由を考えてみたいと山内寿美さんは言います。

胞ー山内寿美展

職業「アーティスト」なんて理想ですが、理想通りに生きている人なんてそうそうありません。山内寿美さんも作品を作るだけの生活ではありません。

ここ10年近く鳥インフルエンザだの新型コロナだったり人類が今まで経験したことのない未知の出来事に遭遇しましたが、山内さん、最前線に近いところで経験する羽目になってしまいました。

発生当初は出口も見えず、心も体も疲弊するばかりでした。

そんな中、学生時代に教授から聞かされた「人間にとって負の物質や菌も取り込んで進化する未来」を願って前回の個展の制作を進めました。制作することで傷ついた心が回復していくのを自身が一番実感しました。

今も完全な解決には至っていませんが、その時に必要だったマスクや手袋が今回の作品のモチーフの一部になっています。作品化することで疲弊は希望に変わっていった。

ベースの使用された服やシーツやマスクは山内寿美の日常のものもあり非常のものもある。それがリアルな人の生活なのだと思う。

最初に職業「アーティスト」が理想だと書いたけれど、実生活という歯車の中で市井の人として生きるからこそ見えるのが現実なんだとしたらそれは理想でも何でもないのかとも思う。

裏話ー山内寿美展

この展覧会はインスタレーションですから、「見え方」がとても重要です。

どう見えるかを何回かギャラリーが空になっている状態の時を見計らってテスト展示をしました。

プリズムの床とメインの部分がどうもしっくり馴染まない。
床がそっぽむいているようなというか、木で鼻をくくったようなというか、とにかく作品がしらッとして見える。

どうしたものか、山内寿美さんは頭を抱えてしまいました。
別の布をかませる案、和紙を敷く案・・・
何だか違う。

最終的に廃棄する石油製品の綿のようなものがあるので飾りつけの時に持ち込んでみることになりました。それが写真の綿のようなものです。

ビジュアル的に床に馴染ませることばかり考えていたので気づかなかったのですが、布も和紙もこの作品のコンセプトに合ってなかった。

「身に着けた物」と「石油製品」で汚染物質を取り込んで「進化」するというコンセプトに反するものが合わないのは偶然ではなく必然だった。

制作の上でふと見失ってしまっていたことを素材がちゃんと教えてくれたいい例となりました。ちょっと恥ずかしいことを暴露してしまいましたが、山内さんがちゃんと心のアンテナを張り巡らせていたから間違わずに済んだことなのだと思います。

インスタレーション「内胞」ー山内寿美展

この「山内寿美展ー内胞」はインスタレーションです。
会場全体で1つの作品です。壁や床に置かれたパーツをも昨日紹介した大きな体幹のような大きな塊も会場全体でで1作品と考えますが、1つ1つのパーツは全体を把握する重要な役目も持っています。

大きな胃壁や腸壁のような塊の周りのパーツは塊には収まり切れなかった気持ちのほとばしりとも思えます。

もちろん小さなパーツも彼女が身に着けたフットカバーやマスクなどに模造真珠や模造ガラスのビーズを縫い付けています。

身に付けた過去があるパーツに嫌悪感をいだく方がいらっしゃるのは重々承知ですが皮膚の延長というコンセプトから身に着けたことがない物にビーズを付けていくという行為ではそこに汚染物質をも進化の糧にしてしまうという考えに反することになるということもご理解いただきたく思います。

生きるとは、生を引き継いでいくとは、壮絶なほどに生々しい。
きれいごとでは済まされない。そこにできれば目をそらさず、深く考えていただけたらいいのですが・・・。

外皮ー山内寿美展

山内寿美さんにとって愛用してきた服は自分にとって第二の皮膚と言う感覚がありました。

消化器の内側の壁(胃壁や腸壁)は皮膚と地続き。
ならばそれも作ってみようと山内さんの制作の思考は広がっていく。

たまたま山内さんはポリープ体質のため定期的にファイバースコープでの検査が必須。画像を凝視してみたら思いのほかそれはきれいなものでした。(山内さん個人の感想でだれもがそう思う必要はありません)

腸壁に当たる部分は使わなくなったシーツがベースです。シーツもかつて自身や家族が使ったもの。

ハンカチやタオルも縫い込みました。汚染物質は消化器系から体内に入り込みますから、もちろん模造真珠と模造ガラスのビーズを約18000個縫い込みました。この作品、全長5m40㎝。圧倒的な作業量。環境汚染が生物の進化の力を呼び覚ましてくれるように願いを込めて。

外皮ー山内寿美展

大好きな服はずっと着続けてしまいます。もう着られないなと思っても捨てがたい。なぜなんだろうと、山内寿美さんは考えた。

長年着た服は自分の皮膚に馴染む。本物の皮膚ではないのに自分の皮膚の延長に思えてくる。そう簡単に捨てられないのは第二の皮膚、自分の身体の延長だからだろうか。実際に自分の細胞のいくつかは着慣れた服に沁みこんでいるはず。

それならそこに進化に必要な(はずの)模造真珠や模造ガラスのビーズを縫い込んでみよう。環境汚染も取り込める生物としての進化。そうなればいい。

希望。

この個展のストーリーはここから始まった。

進化ー山内寿美展

美術を勉強し始めたばかりの学生だったとき、指導教授が「生物は進化するものだから人間だって環境汚染をも取り込んで進化しないとは言い切れない」と言ったことに共感した山内寿美さん。今もそうであってほしいと思い続けています。

そんな話を聞いたころ、世の中は環境汚染問題に揺れていた。
彼女自身も将来に不安を覚えていたのだけど、その言葉の力強さは妙に説得力があり生きる力になったと言います。

前回もそうですが、今回も石油から作り出され土に還らないと言われているプラスチックなどの化学素材で作られているパーツを多用しています。

今回はプラスチックのビーズを縫い込んで制作をしました。
汚染物質を体に入れ込んでいるというイメージです。
模造真珠や模造ガラス。

生命の力はそれほどまでに強靭であってほしい。
取り込んで進化できたとしたら、模造真珠も模造ガラスも美しい存在になるに違いない。

山内寿美展ー内胞

コロナ禍の中自身の心の有様を形にした個展から3年。

山内寿美さん自身がこの個展のために書いたテキスト

ヒトの中身について、制作をしています。
制作のきっかけは、大学生だったころにさかのぼる。
94歳でいまもなお現役の現代美術彫刻家のS氏は当時、総合造形コースの教授であった。
官舎を訪ねたとき、部屋にはトレーニングマシンが所狭しと並んでいて、それらを軽々とこなしながら「今や世の中は人体に有害なものばかり。でもそんなのカラダに取り込んで、人間が進化しちゃえばいいんだよ」。
そんな姿に「やはり時代の最先端を突っ走るアーティストは言うことが違う・・」と感動し、妙にナットクした。当時、環境ホルモンの問題が取りざたされていた時期である。
時代は進み、近年では海洋プラスチック問題、続く「未知のウィルス」に至っては、人体への影響もさることながら、心までもむしばんでいった。(これは実際に体験、何年も疲労感や虚脱感に悩まされた)
人類は、日常生活を営む上で、しかしそれらを完全に排除することは、もはや不可能だと思う。
それならば、いっそ取り込んで内胞し、変容し、進化していくとしたら、その様相はきっと醜悪で、とても美しいだろう、という妄想からはじまったのが今回のシリーズである。
実際、進化を遂げたのかどうかは不明だが、これだけ有害なものにさらされながらも人間は生きながらえ、加齢で衰えていく機能は薬や器具等で補充・補強しながら、なおも生きる。
今回の制作では、古い布や着古した衣服に注目した。
長いこと身につけられたもの、使われたモノは、身体の記憶や感情の痕跡が残存しているように感じる。それらを基布に、表面に現れる球状の集合体は、今そうなっているであろう我々の「内側」を、「外側」にひっくり返した様(さま)である。
それは臓器の一部分であったり、身体を連想させる形であったりする。
制作過程において、隙間なく埋め尽くす行為そのものが、自らの内面に沈殿していた感情と対話し、少しずつ昇華させていく感覚があった。 それは、静かで根気強い「心の掃除」のようでもある。
こうした作品を発表し、観ていただくのははなはだ恐縮ではある。
しかしながら、毒がしばしば薬になるように、誰かの中に微かな振動を生み、何かが芽生える契機となるのであれば、それは制作という営みが持つ根源的な力の証しであると信じたい。
制作を通して自身の考えや感性がより明確になっていったようです。
人類にとって未知の体験となったコロナや鳥インフルエンザが山内寿美さんにもたらしたものは何だったのか。この展覧会を通して皆さんに知っていただけたら嬉しいです。

11月22日(土)午後6時からギャラリー内にてアーティストトークも予定しています。(予約不要・入場無料)ご本人の言葉で作品を語っていただきます。是非お出かけください。
山内寿美展ー内胞
2025年11月20日(木)-30日(日)*11月25日(火)休廊
正午-午後7時(最終日は午後5時まで)
スペースプリズム
〒461-0001名古屋市東区泉1-14-23WHITE MATES1F
052-953-1839

石川真海きものクリエイション5ー最終日

「石川真海きものクリエイション5」は本日(11月16日)最終日です。
きもの文化と広告デザインの融合を楽しんでいただけたことと思います。
来年も11月15日(着物の日)あたりに6回目を予定しています。

次回は11月20日(木)から「山内寿美展ー内胞」です。
脱コロナの時代の山内寿美さんの心を形にしました。
11月22日(土)午後6時からギャラリートーク(予約不要・入場無料)も開催します。是非お出かけください。