散華(続き)ー久野晴美木版画展

散華のために作った作品はほとんど奈良正倉院の宝物に描かれたたくさんの文様を参考にしています。

久野晴美さんは度々奈良に行かれます。ご家族の研究が古い文化を掘り起こすことだそうで、旅の道連れのうちにどんどん興味が湧いてきたようです。もともと版画は制作していたのですがテーマがそちらにどんどん寄っていったというところでしょうか。

今回の個展に向けてテーマの絞り込みをしていくうちにさらにテーマが深まった。

神獣は仏教と密接なものではない。散華は仏教とのつながりが深い。
大事な存在「仏様」が古人(いにしえびと)にとって大事な「神獣」と同等な存在かも。それなら散華(さんげ)してあげたい。どうせ散華するのなら正倉院の宝物にある吉祥文様はふさわしのではないだろうか。

久野さんなりのテーマとモチーフのセレクトでこの個展はできました。
散華は花だけではなく「瑞雲」だったり「蝶」や「蜻蛉」・・・。花も吉祥文様もおもてなし。

散華ー久野晴美木版画展

シーサーや花鹿の周りにあるの何だろうと思ってここ数日会場の様子を見ていた方もいらっしゃるかと思います。「散華(さんげ)」です。

仏さまの供養するのに花を撒きます。花を模した紙片も散華です。
久野晴美さんは花の版画だけでなく吉祥文様の版画を散華として壁に飾りました。

今回は仏様はありませんが、神獣へのおもてなしの「散華」です。
ギャラリー内が華やかで温かい空間に仕上がっているのではないかと思います。

ひと休みー久野晴美木版画展

これはシーサーです。
シーサーも神獣の1つに入りますね。

学生の時沖縄でシーサーに出会った久野晴美さん。衝撃だったそうです。

「面白い!好き!大好き!描きたい!」

私のシーサーを描きたいと描き始めたのだけど、ちっとも自分らしくない。何回描いても納得のいくものではなかった。それでも描き続けた。やっとこれならという作品ができた。

シーサーはなかなか個性的姿かたちをしているのでどうしてもそれにひっぱれてしまう。悔しい思いをしながらどうしても描きたかった。
何十年もかけてやっと描けたシーサーを観てください。

みんなが知っるシーサーとは一味も二味も違う久野晴美のシーサーはやっぱりちょっとのんびりしている。この作品なんてなんとお休み中なんだから。「なんくるないさー」ってね。

「雲の中から」(花角)ー久野晴美木版画展

正倉院の宝物に描かれている「花鹿」という霊獣がいます。
頭に花冠をかぶった鹿です。

牛みたいになっちゃったけど、これはこれでいいかなと久野晴美さんは言います。

正倉院にいる「花鹿」も「花鹿」だし、久野さんが彫った「花鹿」も「花鹿」
また別の人が描いたら別の「花鹿」になるのが楽しい。

久野さんの「花鹿」美しい毛をたなびかせて颯爽と歩く姿が高貴です。

青龍ー久野晴美木版画展

中国の神話に登場する神獣の1つ青龍。
中国では5本爪は皇帝にしか許されません。
上級家臣もしくは属国は4本。庶民や属国以下の国は3本。
その昔日本は中国にとって属国以下の存在だったらしい。だから中国から日本に入ってきた龍は3本爪だったと言われています。

この青龍は3本爪です。
久野晴美さんは5本にするか3本にするかちょっとだけ迷ったそうです。
多くの人を守ってほしいから3本にしました。庶民の味方。
だからお顔も厳めしくはなく、親しみやすい優しいお顔。
これも久野さんらしい神獣への思いです。

「雲の中から(華足)」ー久野晴美木版画展

「華足(けそく)」を知っている人は相当な仏教通か飛鳥奈良の時代に精通している方と思います。

仏様の前にお供えを乗せる台を観たことのある方は多いはずです。その台の足が花や葉の形をしたものを「華足」と言うのだそうです。西洋の家具なんかだと猫足なんというのがありますがそれが花っていうことですね。

有名は「華足」に正倉院宝物もあるのだそうです。

「華足」は仏様をおもてなしするから「華」という発想なのだと思いますが、久野晴美さんは仏様をお守りする神獣に見えた。神獣だったとしたらこういう動物かなという作品です。実際に昔から伝えられている神獣ではないけれど、伝統的な神獣だって人間が想像して創造したものなんだから、久野さんが創造したっていい。

雲の中に遊ぶ「華足」楽しそうです。

小山恵展ー最終日

「小山恵展」は本日最終日です。(午後5時まで)
深いテーマの展覧会でした。これで終わりではもちろんない。これからどれだけ深く掘り下げてくれるのかを楽しみにしたいと思いました。

次回は4月17日(木)から「久野晴美木版画展ー吉祥文様と神獣」です。20日(日)午後1時30分からアーティストトークも会場で開催します。(予約不要・参加無料)是非お出かけください。

津島天王祭(夜祭)ー小山恵展


神や死者の霊をまつる。
自然に対する祈願・感謝。

津島の天王祭を知っていますか?
夜祭は無数の火のついた提灯を乗せて巻き藁舟を水に浮かべます。
それはそれは美しいお祭りです。その美しさを神に奉納する。

見えているのかどうか確かめることもできない神や死者にこの世の人々は懸命に美しいもの豪華なものを捧げる。
その愛おしい心を絵に留めたい。それも小山恵さんはこれからのテーマの1つに加えたいと思っています。

明日恵さんの個展は終わります。終わればまた次に向かいます。まったく違うところに向かうのではなく、今自分の心を占めるからくり人形も曼殊沙華も動物も描き続けます。あの世とこの世をつなぐ1つとして「祭」も登場しそうだということなので最後に「津島天王祭」の絵を紹介しました。

あの世とこの世をつなぐー小山恵展

「彼岸花ってあの世とこの世をつないでくれる気がするんです」と来場されたお客様がおっしゃいました。からくり人形もお祭りの山車に乗せて神様にささげられることがあります。彼岸花もからくり人形もそういう存在なのかもしれません。

小山恵さんは20年ほど前に突然の病を得ることがありました。助かったのは奇跡と主治医に言われるほどのことだったそうです。だれでもいつかは行かなければならないあの世と現世をつないでくれるものがあるのは心安らぎます。誰でも行くのなら身近なはずなのに遠いところ。

現世で生きることの重みを思いつつの恵さんの制作です。

たたずむ猫ー小山恵展

お客様がいらっしゃらない時間、作家のみなさんは私の向かい側に座っています。私から見ると小山恵さんが座っている左にこの絵が見えます。恵さんの顔の角度と猫の顔の角度がほぼ同じに見える瞬間がよくあります。

恵さんの顔は決して猫顔ではありません。でも似てる。

これってよくあるといえばあること。恵さん自身も「目つきかな」と。ある意味自画像なのかもしれないともおっしゃいます。そうか、ご自分でも思うところがあるのか。

小山家のお姫様猫なのかと思ったら、隣家の猫さんだそうです。
でも、毎日朝になると小山家にやってきて夕方になると飼い主さんが迎えに来るのだそうです。この猫(こ)は帰りたがらなくて毎日ひと悶着。小山家にとって大事な猫さんなのでウチの猫(こ)にしたかったのだけど、お隣にとっても大事な猫だそうで決して「うん」と言ってはいただけないのだと残念そうにおっしゃっていました。