山内寿美展ー内胞

コロナ禍の中自身の心の有様を形にした個展から3年。

山内寿美さん自身がこの個展のために書いたテキスト

ヒトの中身について、制作をしています。
制作のきっかけは、大学生だったころにさかのぼる。
94歳でいまもなお現役の現代美術彫刻家のS氏は当時、総合造形コースの教授であった。
官舎を訪ねたとき、部屋にはトレーニングマシンが所狭しと並んでいて、それらを軽々とこなしながら「今や世の中は人体に有害なものばかり。でもそんなのカラダに取り込んで、人間が進化しちゃえばいいんだよ」。
そんな姿に「やはり時代の最先端を突っ走るアーティストは言うことが違う・・」と感動し、妙にナットクした。当時、環境ホルモンの問題が取りざたされていた時期である。
時代は進み、近年では海洋プラスチック問題、続く「未知のウィルス」に至っては、人体への影響もさることながら、心までもむしばんでいった。(これは実際に体験、何年も疲労感や虚脱感に悩まされた)
人類は、日常生活を営む上で、しかしそれらを完全に排除することは、もはや不可能だと思う。
それならば、いっそ取り込んで内胞し、変容し、進化していくとしたら、その様相はきっと醜悪で、とても美しいだろう、という妄想からはじまったのが今回のシリーズである。
実際、進化を遂げたのかどうかは不明だが、これだけ有害なものにさらされながらも人間は生きながらえ、加齢で衰えていく機能は薬や器具等で補充・補強しながら、なおも生きる。
今回の制作では、古い布や着古した衣服に注目した。
長いこと身につけられたもの、使われたモノは、身体の記憶や感情の痕跡が残存しているように感じる。それらを基布に、表面に現れる球状の集合体は、今そうなっているであろう我々の「内側」を、「外側」にひっくり返した様(さま)である。
それは臓器の一部分であったり、身体を連想させる形であったりする。
制作過程において、隙間なく埋め尽くす行為そのものが、自らの内面に沈殿していた感情と対話し、少しずつ昇華させていく感覚があった。 それは、静かで根気強い「心の掃除」のようでもある。
こうした作品を発表し、観ていただくのははなはだ恐縮ではある。
しかしながら、毒がしばしば薬になるように、誰かの中に微かな振動を生み、何かが芽生える契機となるのであれば、それは制作という営みが持つ根源的な力の証しであると信じたい。
制作を通して自身の考えや感性がより明確になっていったようです。
人類にとって未知の体験となったコロナや鳥インフルエンザが山内寿美さんにもたらしたものは何だったのか。この展覧会を通して皆さんに知っていただけたら嬉しいです。

11月22日(土)午後6時からギャラリー内にてアーティストトークも予定しています。(予約不要・入場無料)ご本人の言葉で作品を語っていただきます。是非お出かけください。
山内寿美展ー内胞
2025年11月20日(木)-30日(日)*11月25日(火)休廊
正午-午後7時(最終日は午後5時まで)
スペースプリズム
〒461-0001名古屋市東区泉1-14-23WHITE MATES1F
052-953-1839