ある程度大きくなると「雲は霧なんだよ。だから雲の中にいるって霧の中にいるのと同じだよ。」と教えられて知識としていつの間にか頭の中に入っているという経験は多くの人にあると思う。そして山に登ったり飛行機に乗ったりして雲の中に入る経験を初めてした時、こういうことだったのかと軽く感動したのは私だけではないとも思う。
板倉さんが最初で最後の登山をした時も雲の中にいた。
できればあの雲の上を飛びたい。そう思うと少しわくわくした。
もともと病弱だった板倉さんにさらなる試練が数年前に来た時、そのわくわく感を思い出し、また生きる希望を見つけることになったのです。
あの時の「羊雲」を作った。木片を削って80個ほど作った。
1つ1つナイフで雲を削って作っていると空を飛ぶ力を蓄えていくような気がするのだそうです。それはそれはわくわくする時間だった。木片の触り心地。削り進めるとどんどん手に馴染んでいく。あの柔らかい羊雲がぽこぽこと出来上がっていく。
この「羊雲」の上を板倉さんは心地よく飛んでいるんだ。