もう20年にもなるだろうか。
「MOMO・BIWA・ICHIJIQ」という個展を花井正子さんがプリズムで開いたことがあった。
1メートル四方ほどの画面に桃や枇杷が1枚に一個ずつ描かれていた。
だからそこに描かれていたフルウツたちはかなり巨大ということになる。
絵の前にいると、そのフルウツに自分が入り込んでいく感覚になってきたものだった。それは案外心地の良いことで、淡いピンクや黄色が優しかった。しかし今考えてみると、人によっては優しさに飲み込まれそうな恐怖を感じていたかもしれない。
この絵を観ていたらあの日の感覚が戻ってきた。
これはそんなに大きな絵ではなく、ちょうど桃の大きさの桃だ。
それでもその感覚が思い出されたのは、あの展覧会を見た者だけの特権であるとほくそ笑む。