
職業「アーティスト」なんて理想ですが、理想通りに生きている人なんてそうそうありません。山内寿美さんも作品を作るだけの生活ではありません。
ここ10年近く鳥インフルエンザだの新型コロナだったり人類が今まで経験したことのない未知の出来事に遭遇しましたが、山内さん、最前線に近いところで経験する羽目になってしまいました。
発生当初は出口も見えず、心も体も疲弊するばかりでした。
そんな中、学生時代に教授から聞かされた「人間にとって負の物質や菌も取り込んで進化する未来」を願って前回の個展の制作を進めました。制作することで傷ついた心が回復していくのを自身が一番実感しました。
今も完全な解決には至っていませんが、その時に必要だったマスクや手袋が今回の作品のモチーフの一部になっています。作品化することで疲弊は希望に変わっていった。
ベースの使用された服やシーツやマスクは山内寿美の日常のものもあり非常のものもある。それがリアルな人の生活なのだと思う。
最初に職業「アーティスト」が理想だと書いたけれど、実生活という歯車の中で市井の人として生きるからこそ見えるのが現実なんだとしたらそれは理想でも何でもないのかとも思う。
