昨日お伝えしたようにこの個展が高木伸彦さんにとって初個展となりました。
新人作家です。
ただ新人としてはなかなか遅いデビューなんです。
学生の時から陶芸が好きで知り合いの陶芸家の工房で教えも乞うていたのでしたが就職とともに土に触る時間や土に向かう心も少しずつ遠ざかっていました。それでもいつかちゃんと陶芸の勉強がしたいという思いは持ち続けていたのです。公務員を定年まで勤めあげと同時に当時の瀬戸窯業高校専攻科に入学し2年間勉強し、この春卒業して4年になるそうです。
私は専攻科に入ったときに「初個展はウチね」と髙木さんに言いました。髙木さんも周りもそれは単なるエールだと思っていました。だって作品もまだ作っていない学生さんに個展のオファーだなんて本気にするとしたら相当お花畑な人です。
なんでそんなオファーを出したのか?
髙木さんはもともとプリズム創業以来通い続けてくださったお客様でした。35年通って下さってたくさんお話しさせていただいていたので、彼の作品を観る目の確かさは良く知っていたし、彼がどれほど真面目で謙虚な人なのかも良く知っていました。
60歳を過ぎてから本格的に始めた陶芸。その手が二十歳そこそこからずっと続けている人にそう簡単に追いつくはずがないのは当然のことです。しかしいつかはちゃんと勉強するぞと心に決めて30年以上も展覧会を観続けてきた目を持っている人はそうそういない。そんな人が作る作品が面白くないはずがない。それが私の確信でした。だから6年前にオファーをしたのです。
6年前に「個展を」と言ったからといって「はい」と簡単には言ってくださいませんでした。当たり前です。髙木さんは思慮深い大人です。それでも1年ほど前に個展を開く決心をしてくださいました。残り時間などを考えてのスタートです。
髙木さん本人にとってどうやらこの個展は100点には程遠い展覧会のようです。厳しい目でいろんな展覧会を観てきた髙木さんが自分の展覧会にだけ甘い目にはなろうはずがない。でもね。どんな作家さんもみなさん「100点には程遠い」っておっしゃるんです。私は作らない人だから呑気なことを言ってしまって申し訳ないんですけど、「程遠い」って思うことがさらにいい作品を生み出すんですよね。あの北斎だって「あと10年長く生きたらもう少しましな絵が描けただろうに」って言うんですから。