目指すところー谷口広樹追悼展

谷口作品にあこがれる人はたくさんいると思います。
目指すところとした後進の徒も数知れないのは想像に難くない。

随分前のことになります。
谷口さんが初めてプリズムに現れた日、溝渕美穂さんも彼に会いに来ました。
彼女は「私の神です」とまっすぐな目で言いました。

「神」とまで言われれば谷口さんはたじろいだことと思います。

以来少なくともプリズム周辺では谷口作品を誰よりも深く見続けてきました。
それは谷口さんもよくわかっていたことでしょう。そこまで見続けられていることにいい意味での緊張感もあったのではないでしょうか。もちろん溝渕さんだって谷口さんに作家としての成長を見守ってほしかったはずです。

12,3年前にこの二人の二人展はきっと面白いはずとプリズムはオファーを出しました。プリズムは二人展三人展をめったにやりませんが最初からの出会いがすばらしかった二人ですから、とても楽しみでした。

ほとんどそれぞれが別々に制作をしましたが、数点だけ共作をしてくれました。
この作品がそのうちの1点です。完全に共作で溝渕さんが描いた上に谷口さんが描き加えて仕上げたそうです。こういう作品は感性がものすごくずれているかよく理解されているかバランスのとり方が難しい。それぞれへのリスペクトなくしてはできない仕事です。

先日溝渕さんが「100歳になってよれよれの線で描いた谷口さんの絵が観たかったな」とおっしゃいました。みんな観たかったよね。まだまだ描き続けてほしかったよね。

最近の作品ー谷口広樹追悼展

朱に金銀と細い美しい線で構成されたビジュアルは比較的最近の仕事です作品だけでなくデザインの仕事としても見られるシリーズです。「新之助」というお米のパッケージもこの流れの1つ。

洗練された和モダンなビジュアルは谷口さんならではの美しさがあります。
緊張感のある色と線のバランスはほれぼれします。

それは谷口さんが描く文字にもあります。「描く」と書いたのは文字なのに「書く」ではない絵を描くようなニュアンスが彼の文字にあるからです。

このシリーズにある文字で描かれた言葉は絵のような言葉。

ここから先に谷口さんは思い描いていた世界はどんなだったのでしょうか。
随分前に「書ではない文字の入った作品を描きたい」というようなことをおっしゃっていましたが、もう少し描き進めたかったのではないかなぁと今回このシリーズを観て思います。これはこれで美しく素晴らしいけれど、もっともっと先に行きたかったはずです。

花シリーズ始まるー谷口広樹追悼展

「儘花シリーズ」はここ数年のメインになっている作品群です。
この絵は12,3年前のものですが、このあたりから花の絵が出てきたような記憶です。

「儘花」は鮮やかな色もたくさんありましたが、この花は墨に少し金が使われています。花の中に宇宙を観るようです。

墨のにじみが静かに心に沁みます。
この世が、わが心がこのように静かに世界を広げていけたらそれは至福の時間。広がっていったその宇宙はコスモポリタンだ。

この先「儘花」シリーズは花開く。

たくさんの試みー谷口広樹追悼展

早々に結果を出しデビュー以来順風満帆の谷口広樹さんでしたが、そうあり続けたのには人知れず苦悩も逡巡もあったことだろうと思います。

谷口さんは能力の高い人であったと思いますが、真面目で深くものを考える人でもありました。だから、人も羨む結果を出してもその先もずっとまだやれることがあるに違いないまだ見えてくるものがあるに違いないと手と頭を動かし続けている人でした。

谷口作品の深さは自分と向き合う姿勢の真面目さなんだと思います。
自分と向き合うというのは苦しい時間でもあります。その苦しみが観る側への説得力になるのではないでしょうか。彼の作品の前で「心がすっと救われた気がした」とおっしゃる方は多いのはそういうことだと思います。

谷口さんはこの世からいなくなりとても寂しいのですが、作品は永遠に私たちに語り掛けてくれます。

デビューの頃ー谷口広樹追悼展

谷口広樹さんのデビューはバブル前夜ともいえる時代でした。
パルコが主宰するグラフィック展での大賞がそうだった。
だいたいパルコという存在がバブルの中で最も輝いたんだ。
今あるパルコはあの華やかだった時代のパルコとは全然違う。

時代の最先端を発信するパルコギャラリーやパルコ劇場はすごいエネルギーの中で爆発していた。

そんなパルコも谷口さんの味方でした。
東京藝大卒という経歴も、そういえばという程度。

渋谷のパルコギャラリーでの個展をプリズムに持ってきたのはそのバブルもはじけた後でしたがまだまだその熱量は十分でした。作品集も出版され、谷口さんはどこまで行くのだろうと思っていました。

パルコギャラリーから届いた作品には150号か200号くらいの作品もあって、西武運輸が運んでくれたのですが、当時3階にあったプリズムにどんな手段を使っても入れることができず、泣く泣くそのまま東京にお返ししたことを懐かしく思い出します。谷口さんだって見せたかったんです。その作品の写真くらいは撮っておけばよかったな。

昨夜たまたま当時の映像を駆使してドラマ仕立てにバブル期の空気を紹介する番組を見ましたが、文化にとってはやっぱり底上げを果たした重要な時代だったと思う。

いつの間にか業界から姿を消してしまった人もいましたが、その素晴らしい時代のエキスを地道に吸収した人もたくさんいました。谷口さんもその一人だった。
それから30年ずっと一線で活躍し続けたのですから。それを見続けられた幸せも今感じています。

出会いー谷口広樹追悼展

この作品はプリズムで初めて谷口広樹さんが個展を開いてくださったときに所蔵させていただいたものです。作品の裏にはその時のDMが貼ってありました。1991年7月16日(火)-21日(日)という日付があります。31年前のことだったとわかります。

東京青山のHBギャラリーの唐仁原教久さんからのご紹介でした。
谷口さん34歳の時です。まだ若かった谷口さんですが、作品を観ても世界観が1つ確立されているのがわかります。今見てもゆるぎない何かがあります。
当時から彼の作品の大ファンではありましたが、物静かで少し難しそうな印象の谷口さんとこんなに長くお付き合いいただくことになるなんて考えもしなかったことでした。

これは所蔵作品の中でも一番大きな絵で、B全サイズです。
なかなか出すことができず、公開するのは当時の個展以来です。

そういえば15年ほど前だったでしょうか、ある年のGWに1日だけこの1点を飾るという非公開イベントをしました。谷口さんにもその旨を伝えると、その日東京から駆けつけてくれたのです。参加した皆さんが大喜びでした。「この1点のためにみなさんがお集まりくださるのに僕が来ないわけにはいきません」とおっしゃっいました。この優しさというか謙虚さがまた谷口さんの魅力なんです。だから一昨年の個展に在廊できなかったことを本当に残念がっていたのです。「名古屋に行って万が一自分がコロナウイルスを持っていてうつしていまったら後悔するし、せっかくの個展なのに行かないのも失礼だし」と苦しい選択をされたのです。

追悼展ですから会場でご本人とお会いすることは叶いませんが、きっとプリズムに谷口さんは詰めていらっしゃいます。是非会いに来てください。

昨日遺影の前で手を合わせてくださった方の姿がとても印象的でした。
ありがとうございました。

登龍亭獅篭展3ー最終日

「登龍亭獅篭展3」は本日最終日です。
落語家登龍亭獅篭さんならではのユニークな個展になりました。
来年は6月15日から25日の予定です。待っていてくださいね。

次回のプリズムは7月7日-17日(火曜休廊)「谷口広樹追悼展」です。
30年もの長きにわたりプリズムとお付き合いくださった谷口さんとのお別れの展覧会です。プリズムで過去に谷口作品をお買い上げくださったお客様からも作品をお借りしての展覧会です。私どもの失念でお声がけしていなかった方、大変申し訳ありませんでした。失礼を承知で申し上げます。お貸しいただければ嬉しいです。

ギャラリーで仕事・・・ー登龍亭獅篭展3

獅篭さん今日はギャラリーでお仕事です。
個展会場で仕事をするとき普通こっそりやるんですが、獅篭さんの場合それすらも作品の一部です。

瀬戸の街に行ったことがある人は街のそこここに藤井聡太くんの応援フラッグを見たことと思います。あれ、全部獅篭さんが描いたのです。

おりしも、昨日から聡太くんは豊島九段と対戦しています。勝ったらフラッグを飾るので対戦が終わるまでに描き上げなければならないのです。

対戦中の二人なので横顔。いつもは正面からの顔なので慣れているそうですが横顔は難しいと苦戦中。
聡太くんも実は今回苦戦中で、もし万が一負けるようなことがあるとこのフラッグは幻のフラッグになるのだとか・・・。

いやいや、間違いなく夜にはこのフラッグが瀬戸の街にはためくはずです。

がんばれ聡太!がんばれ獅篭!

DODOROー登龍亭獅篭展3

この展覧会が始まって2日目に少し紹介しました「DODORO」

ちょっと邪悪な顔の立体作品「DODORO」はもちろん獅篭さんの作品ですが、それを平面作品にもしてしまうというなかなかの技です。25年ほど前にトトロを基に絵を描くことは描いた。頭の中にあった平面をいきなり立体にしたというのです。なかなかの荒業だけど、凄い。

立体を作る過程はYouTubeにあげています。

から見ていただけます。

今回新たに作った立体を基に陶器に絵付けをしたり色紙を描いたり、とうとうTシャツまで作ってしまいました。Tシャツお買い上げの方にはオリジナル「DODOROブラックサンダー」がプレゼントされます。もちろん数に限りありです。

この「DODORO」お客様からは「もっと可愛くして」という声もあり、大きなお鼻にぎょろ目に変わりつつあります。

「DODORO」は進化するのか?

ギャラリーに楽屋ができた?ー登龍亭獅篭展3

スペースプリズムの一角にいつもと違う空間ができました。

この展覧会は落語会付きです。
落語の演者は着物を着るのが定番です。着物を着る場所や諸々の準備のためにこういう空間が無くてはならないものなのです。それでここに臨時の楽屋を作ったというわけです。

そしてその空間のためのこの大きな布です。
楽屋のためのものではありません。これは「後ろ幕(うしろまく)」といって本来は襲名披露をはじめとして祝い事の時に舞台の演者の後ろに張り巡らすものです。それを楽屋暖簾に拝借したというわけです。
これ、本当は一昨年獅篭さんが率いる「雷門」を「登龍亭」に改めたときのお祝いのために作られたものです。通常は染物屋さんがデザインを考えるのですが、それは獅篭さんの抜群のセンスでデザインもしてしまったというわけです。これ、昨年の個展でも同じ役目を果たしてもらいましたので覚えている方もおありかとは思います。

ギャラリーに楽屋があるなんて「獅篭展」でしか見られません。そんなことも楽しんでいただけたら嬉しいです。